小動物の真菌症について #2

2023年7月22日

真菌感染症の診断と治療について

帝京大学医真菌研究センター 教授 加納 塁

小動物の真菌症は、皮膚糸状菌症やマラセチア皮膚炎は頻繁に遭遇するが、あまり生命への危険が少ないと思われていることが多い。近年、伴侶動物の高齢飼育化や獣医療の発展に伴い、腫瘍などの難治性疾患への診断・治療を行う機会が増加しているが、それら疾患との鑑別が必要である。また動物病院で遭遇する疾患として深在性真菌症が増加している。真菌症に対する知識が欠けていると、気が付かないために手遅れとなる。近年では、

近年、人および動物の真菌症は、原因菌の多様化および抗真菌剤耐性株が分離されているため、同定・薬剤感受性検査が重要である。

病態と診断

犬・猫の主な真菌症名、原因菌、症状については表-1にまとめた。以下、真菌症の診断法について解説する。

 真菌症の診断には臨床症状の把握、血液検査、画像検査など一般的な検査の他、確定診断を行うための特異的検査として、病変部の直接鏡検(皮膚搔把物検査)、細胞診(押捺標本・塗抹標本)、分離培養検査、病理組織学的検査、遺伝子検査がある。

 一般的な血液検査だけでは真菌症の診断できない。しばしば好中球増多症、リンパ球減少症、高グロブリン血症の他、炎症マーカの異常や、病巣形成に伴う臓器障害よる肝臓や腎臓マーカーの異常などの報告がある。

 レントゲンやCTなどの画像検査では、病巣の検出や浸潤度の判断に有効だが、他の化膿性炎、肉芽腫性炎および腫瘍との鑑別が困難である(図1, 2)。

一方、各特異検査には利点と欠点(表-2)があるため、確定診断が難しい時は、複合して検査する。例えば、押捺標本と分離培養を行う。または、押捺標本と病理診断を行うことによって、他疾患との誤診や真菌症を見落とすことなく確定診断に到達することができる。

 (1)直接鏡検(皮膚搔把物検査)

皮膚糸状菌症に対して最も簡単で、短時間で確定診断できるのは直接鏡検である。

 用意するものとして、鋭匙、ピンセット、カバーグラス、スライドグラス、KOH溶液である。10〜20%のKOH溶液は、試薬の苛性カリ(試薬一級品で充分)を水道水で10〜20%の濃度に溶解して作製する。痂皮を早く軟化させるために、DMSOを全体の50%の濃度に加えると軟化が早まる。またブルーのパーカーインクを30%の濃度に添加して、被検材料を染色して観察する方法もあるが、KOH溶液だけでも充分である。

 被検材料は病巣の周辺部など新しい病巣から採取する。毛髪は容易に抜毛可能なもの、先端を欠くものなどを選ぶ。小水疱の被膜、落屑、増殖した角質も検査対象となる。

 病変部から被毛、落屑を採取する。リングワーム状(表皮小環)病変の場合は、病変の中心部から採取するのではなく、健常部位との境界部の被毛や落屑を採取したほうが、内部に菌要素が多い(図 3)。

 スライドグラス上に採取した試料を置き10〜20%のKOH溶液1〜2滴を滴下し、カバーグラスをかける。10〜15分間放置し、材料が自然に軟化し、透明になるのを待って検鏡する。カバーグラスの上からボールペンの先、ガラス棒などで軽く標本を圧平して、被検材料を延ばすと観察しやすい。またその時、顕微鏡のコンデンサーを下げ、コントラストをつけて菌を検索する。

 検索する時は、まず顕微鏡の倍率を弱拡大にして観察する。健常の被毛は形の輪郭が鮮明であるが、皮膚糸状菌によって分解されている被毛は形の輪郭が不鮮明である。また毛根部に菌体要素が多いので、毛根部や不鮮明な被毛を見つけたら、倍率を上げて菌糸や分節分生子が確認されたら皮膚糸状菌症と診断される(図 4)。被毛に取り付いている分節分生子は、子持ち昆布に似ている場合もある。ただし、出血している病変から採取した場合は、赤血球と間違わないようにする。また角化した細胞が軟化されてバラバラになった場合、細胞の辺縁の輪郭が糸状菌状に見える場合があるので注意する(図 5)。

(2)細胞診

病変部位の生検材料や浸出液、リンパ節の針吸引物、内視鏡生検物などをスライドグラスに上に押捺標本または塗抹標本を作製し、それをライト染色、ギムザ染色、ディフクイック染色を行い、顕微鏡下で観察するとマクロファージなどの炎症細胞とともに、酵母や菌糸が認められる(図6)。ただし、クリプトコックス症の場合は、染色不足で酵母周囲の莢膜がはっきりしないことがあるので、他の真菌感染症を鑑別のために墨汁標本(方法については、後述する。)で莢膜の存在を確認したほうが良い(図 7)。

(3)抗原診断

 ヒトの本症の診断目的に市販の診断キットがある。血清、血漿、脳脊髄液、尿中に存在する。真菌の多糖類抗原に対する特異抗体を用いた、ラテックス凝集反応やELISA法が有る。アスペルギルス症やクリプトコックス症の診断に有用である。しかしながら局所感染の場合には、陰性結果の場合もある。検査を依頼する場合は、予め検査センターへ問い合わせを行う。

(4)真菌の分離培養・同定法

病変部位の落屑、痂皮、被毛、滲出物、膿瘍、尿、乳汁、血液、胸水、腹水、脳脊髄液、リンパ節穿刺物、内視鏡や腹腔鏡などの検査材料からの真菌分離を試みるが、まず原因菌を想定し、それに合った分離培地および培養法を選択することが重要である(表-3)。

採材と保存

①皮膚・粘膜・耳道のスメア:滅菌綿棒で病変部を拭い、培地面に直接塗布する。

②落屑、痂皮、被毛:細菌の混入を少なくするため、患部を消毒用アルコールで清拭後、消毒したピンセットや鋭匙を用いて採材する。あまり多くの試料を一枚の培地面に接種するよりも、少量小分けして多数の培地に接種したほうが雑菌のコンタミが少ない。試料を一時保存する場合は、滅菌容器内に保管するが、冷凍や乾燥させないようにする。

③液体試料:菌体が多い場合は、直接培地面に接種しても良いが、少ない場合は遠心による集菌をしてから培地へ接種する。

④固形試料:ごく微量の場合はそのまま培地に接種する。一方、大きめの試料の場合は、約5~10mm角に切り出し後、各試料をさらに細かく刻んでから各培地に接種する。ただし、接合菌症の場合は長い菌糸が切断されるため、約5 mm角の組織片をそのまま接種する。試料を一時保存する場合は、滅菌生理食塩液を加えた容器内に保管するが、冷凍や乾燥させないようにする。

培養法

 細菌のコンタミを防ぐために、クロラムフェニコールやゲンタマイシン添加培地を用いるが、糸状菌だけを分離したい場合は、細菌と酵母の発育を抑えるシクロヘキシジンも添加する。皮膚や粘膜などから分離する場合は、室温か27℃で培養することが多い。一方、内臓真菌症からの試料や二形性菌を分離する場合は、27℃と37℃の両方で培養する。菌種によっては数日で集落を形成するが、7日以上は培養が必要である。

形態学的同定法

  1. 集落の観察

 酵母の場合は、集落の色(白色、クリーム、黄色、茶色、赤色、黒色)、表面(スムース、ラフ、乾燥、粘稠)、辺縁(スムース、ラフ)、形(球状、平坦)(図8-10)。

 糸状菌の場合は、集落の色、表面の性状(綿毛状、絨毛状)、皺の有無、色素産生の有無、発育速度などを観察する(図11, 12)。

 皮膚糸状菌の鑑別培地であるDTM培地は、培地内に蛋白とpH指示薬のフェノールレッドが添加され、酸性に調整されているため、黄色を呈している。皮膚糸状菌が増殖するときには蛋白を分解するため、培地がアルカリ性に傾き、集落部位の培地が赤変することで皮膚糸状菌と鑑別する(図13)。いくつかの会社から市販されている。ただし、本培地は皮膚糸状菌以外の環境中に存在する真菌も増殖してしまうことや、それらの菌によって長期培養をすると、培地を赤変させてしまう場合もある。そのため、購入した培地を使用する場合は、説明書を良く読み、慎重に判定することが必要である。

 そのため培養された培地上の集落を掻き取り、ラクトフェノールコットンブルー液に浸して顕微鏡下で観察し、菌糸、大分生子、小分生子の形状を確認して菌種を同定する。

②顕微鏡標本による観察

 スライドガラス上に固定・染色液であるラクトフェノールコットンブルー液(乳酸20ml、フェノール結晶 20g、グリセリン40ml、精製水20mlコットンブルーまたはアニリンブルー0.05g)を滴下し、そこへ培地からエーゼを用いて採取した菌体を加え、その上にカバーガラスを重層して顕微鏡下で観察する(図14-16)。

④墨汁標本

クリプトコックスなどの莢膜を観察するために作成する。墨汁を水で2~3倍に希釈し、それをスライドグラス上に滴下し、そこへ培地からエーゼで採取した菌体を加え、カバーガラスを重層して顕微鏡下で観察する。菌体の周囲が透明に抜けて見えれば、莢膜を産生している(図7)。

(5)病理組織学的検査

病変部位の一部生検または全切除物を、適当な大きさに分割し(一部は分離培養検査を行うと良い。)、ホルマリン液で固定後、病理組織検査センターへ送る。送付先には真菌症の疑いがあることを伝えると、HE染色標本とともにPAS染色またはグロコット染色標本も同時に作成できるので、診断が早くなる。

一般的に感染病巣は、菌体とともに化膿性または肉芽腫性病変が見られる(図14)。

(6)分子生物学的検査

 分離菌から遺伝子を抽出し、リボゾームのITSやIGS領域、β-Tublin遺伝子、カルモジュリン遺伝子、キチン合成酵素遺伝子などの塩基配列を解析し、GenBankに登録されている各菌種の同遺伝子との相同性を検索によって遺伝子同定を行う。さらに最近では、クリプトコックスなど次世代シークエンサーを用いて、全ゲノムを解析するgenotype同定も行われている。これによって、病原性の強弱や輸入真菌症などが推測できる。

最新の治療

真菌症の治療の基本は、坑真菌薬を用いた薬剤療法である。真菌は動物と同じ真核生物であるため,動物細胞と構造や機能が類似していることが多い。このことは原核生物の細菌と異なり、真菌に対して特異的に阻害作用を誘導させる標的因子が乏しいため、開発できる抗真菌剤の種類が限られている。また、それだけ既存の抗真菌薬は、生体にも副作用をもたらしやすい性質を有している。

近年、病原真菌のおいても耐性菌の報告が増加しているが、抗真菌薬の種類が少ないことから、耐性菌に対する選択薬が無くなりやすい。そのため上述した方法で原因菌種を同定し、できるだけ副作用が少なく、最も効果のある薬剤および投与量を選ぶことが重要である。ただし、原因菌がどの抗真菌剤に対しても感受性が低い場合は、系統の異なる薬剤を併用することもある。 

そこで、まずは主な抗真菌薬について特徴について説明し、次に使用法について解説する。

1. 主な抗真菌薬

(1)アゾール系抗真菌薬

ミコナゾール、クロトリマゾール、ケトコナゾール,フルコナゾール,イトラコナゾール,ボリコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、イサブコナゾールなどの誘導体がある。真菌の細胞膜成分であるエルゴステロールは、前駆体物質であるラノステロールが小胞体中にある脱メチル化酵素(P450)によって脱メチル化して合成される。アゾール系薬は,この脱メチル化酵素に結合することによって、酵素反応を抑制して細胞膜の合成を阻害させる。

アゾール系抗真菌薬は広い抗真菌スペクトルを持ち,脂溶性,水溶性の薬剤があって,外用薬、内服薬、注射薬など剤型が豊富であるため、今日の抗真菌薬の主流となっている。一方で、耐性菌が出現すると、多種類のアゾール系薬剤に対して耐性能を獲得してしまうことがある。そのため本剤の長期使用に関しては、耐性化の発現に注意する。

アゾール系抗真菌薬はどうしても動物細胞中のP450と少し親和性があるため,それに伴う副作用が発現する。例えば、P450代謝される薬物が併用されていると,その薬物の血中濃度が上昇し副作用が発現しやすくなるため,併用薬物には注意が必要である。また,シメチジンなどのH2ブロッカーを併用していると,本剤の内服薬の腸管吸収が抑制される。

  1. クロトリマゾール

 外用薬として上市されている。動物では皮膚糸状菌症やマラセチア皮膚炎・外耳炎の外用薬として使用されている。

  1. ミコナゾール

主に外用薬やシャンプー剤に使用されている。内服(人の口腔・食道カンジダ症に適応)や注射薬もあるが、外用以外は他の抗真菌剤を使用すべきである。

  1. ケトコナゾール

ケトコナゾールは、構造上イトラコナゾールよりも真菌のP450への特異性が低く、その分、動物細胞のP450との親和性が高く、それだけ肝障害などの副作用が発現しやすいと考えられる。人での副作用発現が多いことから、国内では内服薬は上市されていない。そのため使用には臨床症状と血液検査にモニタリングを行うなど、十分注意が必要である。またイトラコナゾールよりも抗菌活性は同等か劣るため、本剤を使用する利点は、安価というぐらいである。

④イトラコナゾール

本剤の特徴として抗菌スペクトルが広い。また真菌のP450との親和性が高いことから、他のアゾール系抗真菌剤に比べて副作用が少ない。ケラチンに蓄積しやすいため皮膚糸状菌症およびマラセチア症に対して、強い抗菌効果が期待できる。クリプトコックスなどの他の菌に対しても抗真菌活性を有する。また内服薬があるため、投与しやすく、今日の真菌症に対して最も多く使用されている。 

一方、猫の鼻腔・眼窩内アスペルギルス症、真菌性肉芽腫には、肉芽組織内を浸透し病原真菌まで効果を充分発揮しない場合がある。そのため、真菌性肉芽腫には投与量を増やすか、後述の塩酸テルビナフィンを使用または併用をする。本剤は脳脊髄へ到達しにくいため、中枢神経感染を伴うクリプトコックス症には投与量を増やす。

また脂溶性であるため、吸収性を上げるために食餌と共に与える。現在では後発品も入手可能である。しかしながら、犬における吸収試験の報告では、基剤によって投与後の血中濃度が著しく異なるため1)、先発品を使用するか、犬における吸収試験の確認を行った製剤を使用すべきである。

⑤フルコナゾール、ボリコナゾール

ケトコナゾールおよびイトラコナゾールと同じアゾール系抗真菌剤ではあるが、分子量が小さく、水溶性であるため脳脊髄まで薬剤が浸透しやすい。中枢神経感染を伴うクリプトコックス症に使用するとよい。またイトラコナゾールのようなケラチンへの蓄積作用は認められていない。また筆者らが調べたところ、動物から分離されたMicrosporum canisには、本剤に対する感受性が乏しい株も確認されるため、皮膚糸状菌症に対しては第一選択薬として勧められない。抗真菌活性は、フルコナゾールに比べてボリコナゾールが断然強いため、人の内臓真菌症で広く使用されているが、筆者の経験では犬・猫で副作用(食欲不振、血中肝酵素系の上昇)の発現が多い。

⑥ラブコナゾール

 皮膚糸状菌、カンジダ、クリプトコックスなどに対する抗真菌活性が強く、2018年に人の爪の白癬治療薬として国内上市された。製剤は、プロドラッグであるホスホラブコナゾールで、内服吸収後に体内でラブコナゾールとなって抗菌活性を有する。内服薬としては、ボリコナゾールが上市(2005年)されてから13年ぶりなので、期待される抗真菌薬である。

⑦ルリコナゾール

 人の爪白癬の外用薬として上市されている。皮膚糸状菌に対して強い抗菌活性を有しており、爪への浸透性も良い。猫のM. canis感染症への外用治療に用いた報告がある。

⑧ポサコナゾール

 人のアスペルギルス症への治療薬として上市されている。アスペルギルスへの抗菌活性が強い。海外では、猫の眼窩・鼻腔内アスペルギルス症への治療報告がある。高価なため、他の薬剤では治療困難な場合や、分離株の感受性試験で有効性を確認してから使用すべきである。

(2)塩酸テルビナフィン

アリルアミン系抗真菌剤の塩酸テルビナフィンは、細胞膜合成時に必要なスクアレンエポキシダーゼを選択的に阻害することによって抗真菌効果を示すため,アゾール系抗真菌薬とは異なった作用機序を有する。そのため抗菌相乗効果を期待してイトラコナゾールと併用して使用する場合もある。

本薬は,腸管から吸収されると,皮膚の表皮や爪に集積されやすいため,皮膚糸状菌,スポロトリコーシスなどによる皮膚真菌症の治療に使われる。ただし,皮膚糸状菌に比べて酵母菌に対する抗菌活性は弱いので,治療を行うために原因菌の同定が必要である。安全性が高いと考えられるが,人で消化器症状,骨髄抑制,肝酵素の上昇が報告されている。

(3)ポリエン系抗生物質

アムホテリシンBやナイスタチンがある。古くからある抗真菌薬で、真菌細胞膜成分であるエルゴステロールに高い親和性があり、細胞膜に組み込まれてイオンチャネルを形成し、電解質の膜透過性を高めて抗菌(殺菌)作用を示す。哺乳類の細胞のコレステロールにも弱いながら親和性があり、これが副作用の原因となる。特に腎毒性が強く、点滴しながらゆっくり投与するなど注意が必要である。最近では副作用を少なくし、組織移行性を良くするため、アムホテリシンBを脂質のリポソームで包みこんだものが上市されている。

アムホテリシンBの抗真菌スペクトルは広く、接合菌を含む多くの皮膚深在性真菌症(皮膚の真皮および皮下組織に病巣がある場合)および内臓真菌症の原因菌に抗真菌活性を示すが、上記副作用のため、アゾール系抗真菌薬などの他の治療に反応しない場合に使用した方が良い。本薬剤は、腸管からほとんど吸収されないため、静脈内注射で用いられる。口腔内・食道カンジダ症の治療目的で、人の内服薬があるが、内蔵真菌症の治療薬でないことに留意する。

ナイスタチンは内服薬があるが、腸管からほとんど吸収されないために、消化管内真菌症以外には効果がほとんど認められない。そのため外用薬として主に使用されている。

(4)キャンディン系

 主なキャンディン系薬剤にはミカファンギンおよびキャスポファンギン(現在のところ国内上市されていない。)真菌の細胞壁の主要な構成成分である、グルカンポリマーを合成する(1,3)-β-Dグルカン合成酵素(glucan synthase)の活性を阻害する。哺乳類の細胞には本酵素が存在しないため、真菌に特異的に作用し副作用の発現が少ないと考えられる。キャンディン系はカンジタ(C. parapsilosisを除く)およびアスペルギルスには強い抗真菌活性を示すが、クリプトコックス、トリコスポロン、フサリウム、接合菌には抗菌活性が弱い。キャンディン系は水溶性が高いものの分子量が大きいため、腸管からほとんど吸収されないため、投与法は静脈内投与に限られている。

(5)その他

 フルシトシン(5-FU)はDNAやタンパク合成阻害を機序とする抗真菌薬で、消化管吸収がよく組織移行性も高い。カンジタ症やクリプトコックス症の治療に使われる。アムホテリシンBやアゾール系薬と機序を異にするため、副作用を軽減する目的、あるいは耐性菌の発現を防止する目的でこれらと併用して使用されることが多い。 ただし本剤の単独使用は耐性株の出現が起こりやすい。

  1. 抗真菌薬の変更や終了する目安

治療に対する罹患動物の改善状態、画像検査、血液検査、病原検査、分離培養を総合して判断するが、深在性真菌症の場合は判定が難しい場合もある。そのためアスペルギルス症、クリプトコックス症の場合は、血液中の抗原を検査機関で定期的に測定すれば、抗真菌薬の変更や投与終了の目安となる。

3.外科的治療

病巣が肉芽腫を形成している場合は、坑真菌薬が病巣中心部まで浸透しにくいため、可能な限り病巣を切除後、坑真菌薬を投与する場合もある。

薬の処方例(症例の状態によっては、処方を変化させる)

  1. 皮膚糸状菌症

外用薬

人の白癬治療に用いられているアゾール系または塩酸テルビナフィン外用薬を1日1~2回塗布。

抗真菌薬の内服薬が使用できない場合や耳端や指端、体幹の一部など感染が浅く限局された病巣にのみ使用可能。真皮以下まで感染が波及した深在性皮膚真菌症には、外用薬による効果は期待ができない。

外用(シャンプー洗浄)療法

ミコナゾール含有シャンプーで洗浄週1以上洗浄する。

患部の二次感染予防および感染被毛や落屑の環境中への飛散を防ぐことができる。抗真菌薬の内服と併用すると、より一層の治療効果があるとされている10)

内服薬

・イトラコナゾール:5~10mg/kg, PO,1日1回
・ケトコナゾール: 5~10mg/kg, PO,1日1回
・テルビナフィン:30mg/kg, PO,1日1回

  1. マラセチア皮膚炎

外用(シャンプー洗浄)療法

ミコナゾールおよびクロルヘキシジン含有シャンプーで洗浄週1以上洗浄。

外用薬

シャンプーで洗浄後、人の白癬治療に用いられているアゾール系外用薬を1日1~2回塗布。

内服薬

・イトラコナゾール:5 mg/kg, PO,1日1回

  1. 深在性真菌症(アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコックス症)

Green, E. and Calpin 3を参考に作成したが、症状、病態の進行状況、副作用を加味して投薬、用法を検討する。

内服薬

・イトラコナゾール

犬・猫:5-10 mg/kg, PO,1日1~2回

・フルコナゾール:犬・猫:5 mg/kg, PO, 1日2回

脳脊髄炎では10 mg/kg, PO,1日1-2回

・ボリコナゾール:犬 6 mg/kg, PO,1日1回

・ポサコナゾール:猫 5-10 mg/kg, PO,1日1回

・フルシトシン:犬・猫 50-100 mg/kg, PO,1日3回

注射薬

・アムホテリシンB (AMB)

犬:0.5 mg/kgを週3回, IV

犬で重篤な疾患または腎障害のある場合は静脈内へ点滴投与する。250-500ml の5%ブドウ糖液にアンフォテリシンBを加えて、4-6時間以上かけて点滴する。腎傷害が認められず、状態が良好な場合は、30mlの5%ブドウ糖液にアンフォテリシンBを加え、5分以上静脈内投与する。

猫:0.25 mg/kgを週3回, IV

猫で腎傷害が認められない場合は、250-500ml の5%ブドウ糖液にアンフォテリシンBを加えて、3-6時間以上かけて点滴する。

・L-AMB

犬・猫:1-3 mg/kgを2日1回, IV

5%ブドウ糖液にL-AMBを加えて、1-2時間かけて点滴する。

・カスポファンギン

犬:50mg/m2を1日1回, IV

生理食塩水に溶解して、1-2時間かけて点滴する。

・フルコナゾール

犬・猫:5 mg/kg, IV, 1日2回

高齢動物への配慮

高齢による日和見感染時には、病態の進行が早いためそれだけ重篤になりやすい。また抗真菌薬の副作用に注意する。

飼い主に伝えるポイント

・皮膚糸状菌症の場合、飼い主にも感染する場合が多いため、飼い主に皮膚炎が生じた場合は皮膚科へ受診することを勧める。

・マラセチア皮膚炎の場合、基礎疾患によって再発しやすいことを説明する。

・深在性真菌症の場合、重篤化していることが多く、難治性のため死亡率が高い疾患であることを説明する。また治療が長期になることや、坑真菌薬治療による副作用の発現しやすいことを説明する

参考文献

1) Mawby DI, Whittemore JC, Genger S, et al. Bioequivalence of orally administered generic, compounded, and innovator-formulated itraconazole in healthy dogs. J Vet Intern Med. 28: 72-77, 2014.

2) Moriello, KA. Treatment of dermatophytosis in dogs and cats: review of published studies. Vet. Dermatol. 15:99-107, 2004.

3) Green, CE. Calpin, J. Antimicrobial drug formulary.In: Greene CE, (ed). Infectious Diseases of the Dog and Cat, 4th ed. ed), Saunders Elsevier, St. Louis. 2012, pp 1207-1320.

図の説明

図1  猫のアスペルギルス感染による鼻腔・眼窩炎の症例に対して鼻腔内CT画像とそれをもとに再構成した立体画像。

図2 真菌性骨髄炎のレントゲン像。画像だけでは、骨肉腫との鑑別は難しい。

図3 皮膚糸状菌症による環状紅斑。矢印の紅斑辺縁部を採取すると菌体が多い。

図4被毛周囲に取り巻くMicrosporum canisの球形の分節分生子。

図5 軟化した角化細胞の輪郭。菌糸と間違わないこと。辺縁をたどると楕円形であるため、角化細胞とわかる。

図6 猫のクリプトコックス症におけるリンパ節の針吸引塗抹標本。莢膜に覆われた多数の酵母を貪食したマクロファージが認められる(ライト染色)。

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図7 墨汁に懸濁したCryptococcus neoformans。菌体周囲の墨汁が莢膜によって弾かれて、光が透過ししている(←)。

図8 Candida albicansの集落。クリーム色で表面および辺縁がスムース、ドーム状に隆起している。

図9 C. neoformansの集落。クリーム色で表面および辺縁がスムースで光沢がある、ドーム状に隆起している。莢膜を産生しているため、光沢のある集落が特徴。

図10  Malassezia pachydermatisの集落。黄褐色で表面および辺縁がラフで乾燥している。平坦に隆起している。

図11 サブローブドウ糖寒天培地上のM. canisの集落。絨毛状で黄色の色素産生が認められる。

図12 サブローブドウ糖寒天培地上のAspergillus fumigatusの集落。緑色ビロード状の集落。

図13 dermatophuyte test medium(DTM)培地上にM. canis真菌を接種し、室温で5日間培養。M. canisの代謝によって集落周辺の培地がアルカリ性になったため、赤変している。皮膚糸状菌と鑑別するには、この様な時期に行う。

図14  M. canisの大分生子。紡錘形で細胞壁および隔壁が厚い。

図15 M. gypseumの大分生子。紡錘形であるが、細胞壁および隔壁が薄い。

図16 サブローブドウ糖寒天培地上のTrichophyton mentagrophytesの白色扁平で顆粒状集落。

図17 猫の鼻腔内アスペルギルス症の病理組織。分岐し隔壁の有する菌糸を取り巻くようにマクロファージなどの炎症細胞認められる。

Table 1

 検査内容必要日数*
料金(税込み)
培地上の集落の判定(形態観察のみ):1集落あたり21日以内4,500円
①でコンタミが多く、分離培養が必要な場合30日以内6,000円
②で遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)が必要な場合:酵母で1集落あたり35日以内15,000円
②で遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)が必要な場合:糸状菌で1集落あたり40日以内18,000円
被毛・痂皮からの分離培養および同定(形態観察のみ):1集落あたり27日以内5,500円
⑤でコンタミが多く、分離培養が必要な場合:1集落あたり35日以内7,000円
⑤で遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)が必要な場合:酵母1集落あたり40日以内17,000円
⑤で遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)が必要な場合:糸状菌1集落あたり45日以内20,000円
生検組織からの分離・遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析):酵母1集落あたり40日以内17,000円
生検組織からの分離・遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析):糸状菌1集落あたり45日以内20,000円
純粋培養された酵母集落から遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)のみ14日以内12,000円
純粋培養された糸状菌集落から遺伝子同定(リボゾーマルITS領域解析)のみ14日以内15,000円
薬剤感受性試験(酵母) 1株4薬剤まで(分離・同定費用は含めません)30日以内12,000円
薬剤感受性試験(糸状菌) 1株4薬剤まで(分離・同定費用は含めません)30日以内15,000円
薬剤感受性試験 ⑪、⑫で+1薬剤ごとに  
コンタミのため、同定不能の場合  
 動物の真菌症・皮膚病の診断・治療について相談(メールにて)1件  
 サブローブドウ糖寒天平板培地(抗生剤添加) 1枚 (発送料別)  
 図17 猫の鼻腔内アスペルギルス症の病理組織。分岐し隔壁の有する菌糸を取り巻くようにマクロファージなどの炎症細胞認められる。 
    
    
 
*あくまでも目安です。試料の発送料については依頼者負担でお願いいたします。
  
 その他、検査・料金については、メールでご相談を受け付けます  

Table 2

Table 3